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オタクが好きで何が悪い!!【サンプル】

オタクが好きで何が悪い!! / A5・ベルベットPP ・フルカラー / P100・小説・R-18 / ¥1,000
オタクスザク×アイドルルルーシュ♀(先天性女体化)
6/17(日)開催のFULL CODE 6発行 / H-08b / Louche
『アイドルのルルーシュが大好きなスザク。特賞のアンドロイド型アイドルルルちゃん1週間レンタル権が当選したのだが、スザクの元へ届けられたのは実は本物で……』

 

装丁参考→illust/69193186


とらのあな様で通販開始。

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※イベントと自家通販以外にはミニ小説付ペーパーつきません……(ごめんなさい・涙)

 

 

 


 

 

 

 

 


一.

「おめでと〜〜! 君が今回の当選者だね〜」
「え、えぇっ!?」
扉を開くんじゃなかったと唐突に後悔が襲う。
誰に対しても人当たりがいいと言われる彼だったが、扉を開けた瞬間、白衣を着た如何にも怪しい科学者風の男がクラッカーを鳴らして――しかも近所迷惑―――目の前に立っていたら、流石に当たり障りない笑顔を作ることができなかった。
枢木スザク、二十歳。もうすぐ大好きなルルーシュが出演するドラマが始まるから、早く切り上げてくれないかな……と思う、秋も終わり頃の事だった。

 


「事情は理解しました」
ルルーシュのドラマは残念ながら間に合わなかった。仕方なく録画ボタンを押して――今までずっとリアルタイムで見て来たのに……!―――何とか最悪の事態だけは避けたのだが、目の前の科学者風の男は遠慮なくズカズカと部屋に入って来て、その後をさも当たり前の様に配達員が大きな箱を持って入って来る。
「あ、あのぉ……、これは?」
流石のスザクもこのまま押し切られてはいけないと思ったのか、それとも前回、訪問販売員さんの御涙頂戴劇に数万するツボを買わされたのを反省してか、割と早い段階で相手の行動にツッコミをいれた。
「あれ? セシルくぅ〜ん、相手に連絡いれてないの?」
「おかしいですね。手紙は出している筈なんですが」
「手紙……?」
二人の会話に思い当たる節があったのか、ちょうど玄関に備え付けてあるシューズボックスの上に乱雑に置かれていた手紙の束を手に取り、目の前に扇状へ広げて彼らに問いかけた。
「この中にあったりしますか?」
「あぁ、これ! も〜、せっかく当選したのに準備してなかったのかい?」
「当選…? 準備?」
思い当たる節のない単語が飛び交い、全く自分の中の記憶と一致せず、困惑の表情のまま首を傾げるスザクに業を煮やしたのか、ロイドが封筒を奪い、中の手紙を目の前に突きつけた。
「え…っと、当選……の、お知らせ……?」
要約すると、応募した何かに当たったらしい。そして今日の日付に、その当選品を送るのできちんと準備をして欲しいというものだった。
「なるほど、貴方方が来られた理由は理解しました」
と、言っても理解したのはよくわからない何かが当選したと言うこと。目の前にいる人が何者だとか、一体何が当選したかという情報はいまだ解らないままだ。
「ルルちゃんアンドロイドキャンペーンって覚えてる?」
「はい。コンビニで対象のドリンクを買うと付いてくるシール五枚一口応募できるキャンペーンですよね」
その対象ドリンクというのが、ハバネロ味噌ジュースやジャム入りドリンクなどと言う、信仰心がためされるものばかり。買って飲むのは大変勇気が必要なため、ルルちゃん掲示板では話題になったが応募できる人は限られていた。
かく言うスザク自身も一日一本が限界で、キャンペーン期間中は毎日を飲むという苦行をこなしたのは忘れられない記憶だ。勿論、ルルーシュファンはドリンクを買って捨てるなんて事はしない。だって自分たちのせいでルルーシュが悪く言われるのは絶対嫌だったから。
「そうそう。あの超絶不味……」
ロイドがその言葉を口にしようとした瞬間、今いる部屋の温度が氷点下かと思うくらい寒くなった。今、秋だよね!と言いたくなるくらいの出来事に瞳を丸くしたスザクは、目の前で起こった出来事に気付かない振りをした。
「そのキャンペーン内容覚えているかしら?」
にっこりと、人当たりの良さそうなお姉さんが先ほどの科学者風のお兄さんを踏みつけながらこちらへ問いかける。
こういう時は何も見ないのが大事だと今までの少ない人生経験で学んでいるため、スザクは持ち前の度胸でやり過ごす。
「えっと、確か……あれは、スポンサーの会社がアンドロイドの開発に力をいれていて、アンドロイドルルちゃんを試作として創ったから、特賞がアンドロイドルルちゃん一週間レンタル権、次点がアンドロイドルルちゃん等身大人形プレゼント、三等はアンドロイドルルちゃんストラップで、外れた方に抽選で武道館ライブチケットが当たる……でしたっけ?」
よく覚えているという視線が突き刺さるが、そういう視線は日常茶飯事のため、一々気にしていられない。
「そのキャンペーンが当たったのよ、枢木スザクくん」
「―――――へ?」
――アタッタノヨ。
頭の中で色々な当たったが走馬灯のごとく流れていく。隕石とか車とか食べ物とか、およそ現実味のない状況を一通り頭の中で羅列した後、僅かながらの冷静な(?)判断力で今度こそスザクは導き出した解答を口にした。
「なるほど、それであの大きな箱なんですね。二等のアンドロイドルルちゃん等身大人形が入ってい……」

―――ガタガタガタ!!

何か聞こえた。
自分の背後に置いてある大きな箱からこける様な音がした。
嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、スザクは張り付いた笑顔を焦りの表情へと変えつつ、やっと起き上がったロイドとセシルを交互に見つめた。
「君が当選したのは特賞のアンドロイドルルちゃん、一週間レンタル権だよ」
「…………えぇぇぇぇえええええええ!!」
たっぷりの間。
ついで聞こえたのはとうとう思考のキャパシティを超えてしまった事による悲鳴だった。

 

「すみませんでした……」
あまりにも大きな声だったため、壁が薄い部屋では隣に筒抜けになっていたらしく怒られてしまった。呆然としていたスザクに代わり、セシルさんが謝ってくれたおかげで隣に住んでいるイカツイおじ様は上機嫌で帰ってくれたのは幸いだ。
「いいのよ。こっちこそ急にごめんなさいね。連絡を受けて既に準備万端だってこの人が言っていたから……」
この人、と指さされたのは勿論ロイドと呼ばれた変態科学者風の人。先ほど、お互いの挨拶もすませ、彼は科学者ではなくルルーシュ・ランペルージをプロデュースしているロイド・アスプルンドさん。ルルーシュファンなら知らない人はいないくらい、彼女をプロデュースする手腕は素晴らしい。
隣に立っているすらりとした女性はセシル・クルーミーさん。ロイドさんのサポートを主にしていて、ルルーシュのマネージメントも行なっているらしい。
彼女曰く、ルルーシュのマネージャーはすぐ辞めていくため、彼女がサポートせざるを得ない状況だとロイドさんがぼやいていた。
目の前に憧れの人たちが自分の家にいる。それだけでも信じられないのに、アンドロイドルルーシュと一週間過ごせる権利があるというのだから、一生分の運を使い果たしてしまったのかもしれない。
「じゃあ、とりあえずは注意点からね」
「はい!」
「期限は明日から一週間。二十四時になった時点で回収班がくるから気をつけてね。あと、アンドロイドだからって雑な扱いはダメだよ? アンドロイドって言っても普通の人間と変わらないから、大切に扱ってくれないと期限前に回収なんて事になっちゃうから気をつけて。毎日リアルタイムでデータを受信してるから、エマージェンシー信号がこちらに届いた時点で権利剥奪だよ」
「絶対にそんなことはしません」
「うんうん、それならよかった。前に当選した人は酷かったからねぇ」
「一週間もった人がいませんものね……。ちょっとくらい、という一時の感情に任せる方が多くて」
この言葉ぶりからすると、当選したのはスザクが初めてではなく、何人か目の繰り上げ当選のようだ。最後にぽつりと、君でダメならこの企画は残念ながら立ち消えかな、と聞こえて、スザクはそうならない様に頑張ろうと心に決めた。

―――ガタガタガタ!!

「おい! ロイド、まだかっ」
また聞こえてきた。
しかも今度は自己主張激しく。
「もうちょっとだから待ってね、皇女サマ」
「皇女サマ?」
「あぁ、ちょっとばかり気位が高いからあだ名だよ、彼女の」
「へぇ、そういうところもそっくりなんですね」
彼女の気位の高さは優美さを持ち、どの媚びない姿がファンが増える要因の一つだ。アンドロイド―――所謂、ロボット――であることを考えればもっと機械的なのかと思ったが、想像以上に本人そっくりに造られている様だった。
「ええっと、どこまで話したかな。あー、殆ど人間と変わらないから食事もお風呂とか全部必要だよ。コレ取説ね。詳しい事は全部ここに書いてあるから。わからないことは本人に聞くか、緊急連絡先として僕の携帯番号渡しておくから電話してきてね」
最後の方は面倒臭くなったのか駆け足でざっと説明され、それに合わせるかのごとく箱がガタガタと揺れて今にも壊れそうだった。
「はいはいはい! 今開けますから! 全くもう、全然ドッキリにならないじゃないですか……」
大きなリボンがあしらわれた白い大きな箱。それが今から開封されるという状況に、スザクは目の前で正座をして憧れてやまないアイドルのルルーシュを出迎える。
「はーい! ご開帳〜〜〜!!」

―――パーン!

リボンが解かれたと同時にセシルさんがクラッカーを鳴らす。
あの、だから近所迷惑……。
そんなスザクの心のうちを知らないらしく、箱からでてきたルルーシュは両手を広げたポーズとドヤ顔でチカチカと光る蛍光灯の下、佇んでいた。
(あー、電球切れそう。こんなことなら新しい蛍光灯買っておけばよかった)
せっかくのルルーシュ登場シーンだというのにしまらない。そんな雰囲気を感じ取ったのか、ルルーシュはコホンと一つ咳払いをすると、スザクの眼前に人差し指を突きつけ、声高らかに宣言をした。
「ふっ。ラッキーだったな、枢木スザク! お前が当選したのはこの俺と一週間暮らせる権利だぞ。あぁ、ただし変な事したら即座に権利剥奪だからな、覚えておけ!」
とてつもなく偉そうな態度で上から見下ろす彼女は、スザクが思い描いた姿そのもので、感動を色濃くした表情のまま、ただ黙って何度も頷いた。

 

「じゃあ僕達は帰るから、一週間頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
とっても分厚い取り扱い説明書を手渡され、スザクは大事にそれを胸に抱えたまま、部屋を後にする二人を見送った。
「本当に本人そっくりなんだね」
同じく彼らを見送るために玄関先に立っていたルルーシュへと向き直り、綺麗な容姿をじっと見つめていると藍紫がスザクを捉え、たったそれだけだというのに嬉しくて堪らない。
「ここじゃ寒いから中に入ろうか。僕は枢木スザク。とりあえず緑茶しかないんだけど、それでもいいかな?」
「因みに俺は紅茶派だ。紅茶はないのか?」
「ごめんね。紅茶はないんだ」
「紅茶はないのか。まぁ、仕方がないな」
いつもテレビ越しで響く、女性にしては低めのアルト。この部屋に似つかわしくない彼女がいるという違和感を覚えつつ、ソファへと誘導して座らせる。座るその姿も美しく、本物となんら遜色ない。ピンと張った背筋でスザクがお茶を入れてくるのを待っている姿は、感動すら覚えた。
待たせないため急いで、けれど自分の家にある一番美味しいお茶を手ずから淹れ、テーブルにお茶菓子とともに差し出す。
「アンドロイドってもっと機械的なのかと思ったけど、最新型は本当に人間と変わらないんだ。ご飯もお風呂もって取説にあったけど凄いね」
感嘆の声を漏らすスザクへ視線を向ける。
まだ緊張が解けていないのか、ルルーシュは硬質な空気を纏ったままスザクの一挙一動を不躾なまでの視線で射抜く。
今まで数人の当選者を相手にしてきたが、最初の印象から最悪な者が多かった。いきなりスキンシップを測って身体に触れてきたり、本物とどう違うのかと服を脱がせようとしたり、媚をうらないと知れば暴力に訴えかけてきたり、数えればキリがない。
おかげで本物のアンドロイドは壊れてしまった。
心も身体もボロボロになった彼女をこれ以上、次の相手の元へ行かせる訳には行かず、ルルーシュはクライアントへ抗議した。しかし、たかが一介のアイドルの言葉で巨額の投資が動いているキャンペーンをなかった事にできるはずもなく、壊れかけたアンドロイドを応急処置だけして、次のご主人様の元へ差し出すしかなく……。
そんなこと、許せるはずもない。たとえロボットだからといって、好きにしていいはずもなかった。

―――だからルルーシュは、身代わりになった。

「俺は本物のルルーシュ・ランペルージだ」
ファーストインプレッションは、今までの相手と随分マシだったが、だからと言ってすぐに警戒を解く訳にはいかない。
ぶしつけな行為だと解っているが、相手の仕草を視線で追いつつじぃっと彼を見つめる。印象的なのは超絶ダサく分厚い瓶底眼鏡。明らかにアイドルオタクだと言わんばかりのルックスに、それら全てが今後を物語っている気がして、深い溜息を一つく。
「うん、わかった。本物のルルーシュだね」
やけにあっさりと理解を示すスザクに、懐疑の色を濃くしたルルーシュだったが、即座に続く言葉に毒気を抜かれてしまった。
「一週間よろしくお願いします。ベッドは一つしかないから僕のを使ってね。ここ、一見ボロくて壁が薄いけど、部屋は3つあるし、寝室には内鍵が付いてるから寝る時はかけて構わないよ。僕はソファーで寝るから安心して」
驚いた。
まさか紳士的に対応されるとは思っていなかったのか、綺麗に煌めく藍紫が大きく見開かれる。

―――本当に、夢じゃないんだ。

「そうしてもらえると助かるな。スザク、せっかくだからやりたい事はないのか? ある程度なら聞いてやる」
「別にないよ。君がここにいてくれているだけで奇跡だし、これ以上望んだらバチが当たっちゃうよ」
嬉しそうに笑うが、瓶底眼鏡のせいでニタリと気味悪く笑ってるようにしか見えない。さすがのルルーシュもまだ慣れていないせいか、不気味な笑い肩をするスザクから思わず距離をとった。
そんな彼女の態度を気にした様子もなく、飲み終えた湯呑みを洗い場へと持って行こうと立ち上がった瞬間、ぽむっと両手を合わせてルルーシュへ向き直る。
「最近、肌寒いからコタツを出そうと思ってたんだ。もし、コタツを出したら一緒にぬくぬくしながら蜜柑を食べたいな」
「欲がないんだな」
裏表のない態度というのは、ルルーシュが今まで生きてきた世界には無いモノだった。否、たった一つだけあったと言えるだろうが、もう手に入らない。今、彼女に向けられているのは純粋な好意。何も邪なものを含まない。
酷く居心地の良さを感じている自分に気づき、一瞬の躊躇いの後、彼はきょとんとした曇りのない瞳でルルーシュを心配そうに覗き込んでいた。
「こたつというものが判らないが、蜜柑はわかる。とりあえずこたつに入って一緒に蜜柑を食べればいいんだろう? それくらいお安い御用だな」
「じゃあ早速用意するよ!」
ちょっと待っててと声をかけて、片付けようとしていた湯呑みのことも忘れて一目散に押入れを開け放つ。唐突な行動に面食らっていたが、あれよという間にコタツがセッティングされていく様が面白くて、まじまじと出来上がりまでを眺めていた。
「日本の冬は寒いから、一日こたつで過ごす人も多いよ。気に入って輸入する人も増えてるみたいだし。蜜柑は僕が筋まで剥いてあげるね」
いうが早いか、ルルーシュの返事を聞くことなく、宣言通り甘そうな蜜柑を選んで綺麗に筋まで剥くと『はい、あーん』と口元まで蜜柑を運んだ。
「う…」
まさか直接彼の指から食べろと差し出されるとは思っておらず、キラキラした笑顔を向ける―――実際は瓶底眼鏡に阻まれてはいるが―――スザクへちらりと躊躇いの視線を向ける。
まるでわんこの様にしっぽを振る様子が伺え、ルルーシュはため息を吐くと瞳を伏せながら唇を開いて、鼻孔をくすぐる甘く芳醇な香りを放つそれを口に含んだ。
「…ん。美味しい」
「よかった。まだあるからたくさん食べて。筋だけ剥くから自分で食べる?」
ルルーシュの意味ありげな視線に気付いて問いかける。もしかしたら食べさせられるどころか、筋を剥くためとはいえオタクがベタベタ触った蜜柑を食べたくないのかもしれない。しょぼんとしながら皮を剥いていない蜜柑も目の前に置いて、好きな方を選べるようにした。
「そうだな…」
事実、見知らぬ人間から急に餌を与えられる程、ルルーシュの警戒心は皆無ではない。
再度、スザクの様子を伺うが、一見害がなさそうでいてその逆である人間を嫌という程見てきており、まだ警戒しているといった意味も含め、自分で食べる事を選択した。
「お前が食べさせて欲しいならしてやる」
「えっ! いいの!? あーん」
まさかの提案を断るはずもなく、二つ返事で了承すると差し出された蜜柑をぱくっと口に含み、味わうためゆっくりと咀嚼する。いつも食べている蜜柑より甘く感じるのはルルーシュが食べさせてくれるせいだろうか。
「ルルーシュが食べさせてくれるってだけで凄く美味しいよ。」
本当に自分のファンなのだろう。本当に嬉しそうな顔で食べる姿に、いつもはあまり笑わないルルーシュも笑みを浮かべた。
(…っ。なんだかワンコに餌をやっている気分だ)
柔らかな髪がルルーシュの目の前で触って欲しそうに揺らめき、分厚いメガネの隙間からは思ったより大きな瞳がこちらを見ていた。
そう、完全に大型犬がご主人様にご飯をねだっている状況に近く、ルルーシュは思わずそのふんわりとした髪に触れる。自分のしっかりした髪質とは違う、猫の毛に近いふわふわした感触。それは想像以上のものだった。遠い国にいる妹を思い出し、思わず撫でているとスザクがもっとと言わんばかりにルルーシュの指に頭を押し付ける。大の男がそんな仕草をしようものならば気持ち悪さが先に来るはずなのに、なぜかそんな気持ちがかけらも起きず、お互いが満足するまで癒しの時間を過ごした。
「あ、ご飯はどうしようか。あまり豪勢なものは出せないから普通の家庭料理になっちゃうけど……」
「特に希望はない。あまり好き嫌いもないしな、お前に任せるよ」
「わかった。じゃあ買い出しに行ってくるけど、君が大丈夫なら一緒に買い物に行く?」
このまま留守番でも良かったが、何かあった時に対処できる状態を考えると近くにいて貰った方がいい。しかし、外にでるとなるとそれはそれで別の問題が生じる。ならばルルーシュに決めて貰おうと提案した。
「あぁ、俺も行く」
家の中でジッとしているより、やはり外に出た方が気分転換にもなる。しかも今日から一週間、あれだけ多忙だった仕事はこの企画のために半分以下になったのだ。ならば満喫するのが筋というものだろう。
「忙しくて日本をあまり観光した事がないんだ。良かったら少し寄り道してくれると嬉しい」
スーパーの広告を広げ安い食材を確認つつ、作る料理をどうしようか考えていると、ルルーシュから嬉しい提案を貰う。
「うん。わかった」
二つ返事でルルーシュのお願いを快諾し、出かける準備のために自室へと向かう。
あのまま外へ出てしまえば、どうしても目立ってしまうのは明白だ。と、なると変装しかない。スザクは昔、友人から貰った度の入っていないメガネがあったのを思い出し、引き出しの奥へと腕を差し入れ搔きまわす様に探った。コツン、と指先に当たる何か。取り出したそれが目当ての物だと認識し、駆け足でルルーシュの元へと急いた。
「サングラスとかよりはメガネの方が目立たないと思う。後はこの帽子を被ったら大丈夫じゃないかな」
「ありがとう」
観客に向ける笑顔とは違う、素の自分で笑顔を向けてお礼を告げ、手渡されたメガネを装着する。近くにあった鏡で見かけをチェックし、長い髪の毛を帽子の中へと入れると満足そうに頷いた。
「よし、準備万端だ」
「じゃあ行こうか」
扉へと手をかけた瞬間、ルルーシュへそっと手のひらを見せて立ち止まるジェスチャーを見せ、外を警戒するべくそっとドアノブを回した。
ここはアパートのため、オートロックや住人だけが入れるといった気の利いた機能はない。そのため、パパラッチに張り込まれたら一発アウトだ。
スザクは周りを警戒しつつ身を乗り出し、人影がないことを確認するとルルーシュを手招いて一緒に階段を降りてアパートを後にした。
スーパーのタイムセールまでは時間がある。ルルーシュが希望したささやかなお願いを実現するため、近所を案内しながら散策して回る。
「そう言えば本人そっくりに作られてるなら、好きな物も一緒で甘い物が好きなの? 最近、近くにカフェが出来たんだけど結構評判みたいなんだよね。行ってみる?」
「そっくりじゃなくて本物だって言ってるだろっ」
つい先程わかったと返事をしたくせに、やはり信じてなかったのかとムッとした視線を向ける。しかし耳に届く評判のいいカフェという単語にぴくりと反応を示し、瞳を輝かせてちらりとスザクを見つめた。
「……行く」
「決まりだね」
本物が来る訳ないと思い込んでいるスザクに、彼女の言葉は届かない。しかし、本物のルルーシュではないとしても、彼女に少しでもいい思い出をあげたい。今から過ごす一週間を少しでも楽しかったと思えるものにしたいという気持ちがあり、自然と伸ばした手でルルーシュの手を引き、驚く藍紫をそのままに噂のカフェと歩き出す。
自然と繋がれた手。
ジッとそれを見つめて首を傾げる。
ルルーシュはあまりスキンシップが好きではなく、どちかと言えば誰とも仲良くなる事はないタイプだ。仕事でも表面上の付き合いはするが、所謂飲み会という物には参加しないし、食事に誘われても基本は断っている。
なのに、目の前の男に触れられて嫌だと思わないのは何故だろう。
「うわぁ……想像以上に盛況だね。ほら、好きなものを頼んでいいよ。夕飯前のおやつにちょうどいいと思うし」
時間は丁度ティータイムである午後三時を指している。そのせいか、カップルが多くケーキセットが数多くのテーブルを彩っていた。
このカフェの手作りだろうメニューが、可愛らしい文字で『これが今日のオススメだよ!』と書かれている。ルルーシュは思わず視線をそこへ奪われてしまい、それに気づいたスザクが横から覗き込んでメニューとルルーシュを交互に見る。
「それ、気になるの?」
「な、何故わかった」
そんなの、彼女を見れば一発なのに、バレないと思っている所が可愛いと思った。計らずとも緩む頬を何とか片手で覆うことで隠しつつ、震える指先でメニューを指し示す。
「これ……」
それを目にした瞬間、ルルーシュの目の色が変わった。
「俺は中々プリンにはうるさいぞ」
「う…お手柔らかにお願いします」
スザク自身は甘いものを食べる習慣がない為、連れてきたはいいが気に入るかどうかはわからない。
「すみません。注文、いいですか」
忙しい中でもそれを感じさせない動きと、ゆったりとした声音で返事を返す様子を見ていたルルーシュは、それだけでここが過ごしやすいカフェだと理解する。
すぐに注文を聞きに来た店員へ、メニューを指し示そうとすると、オススメの中に注文しようとしたプリンがセットで付いていると勧めてくれた。
先ほどの会話を聞いていたのだろうか。細やかな気遣いを感じ、せっかくだからとオススメセットをお願いする。同時にスザクもルルーシュと同じ物をと告げれば、甘さ控えめのコーヒープリンに変更も可能だと勧めてくれ、せっかくのお勧めに便乗するのだった。
程なくして運ばれてきたプリンに、まるで子供のごとく瞳を輝かせる姿は、テレビで見るそれとは違い一線を画す。もう待てないとばかりに食事前の挨拶もそこそこに、スプーンを持った手は躊躇う事なくルルーシュの唇へ運ばれた。
プリンを食べる姿すら絵になる。口に入れ嚥下される挙動を余すことなく見つめ、美味しい?と恐る恐る尋ねた。
「君の口に合えばいいんだけど…どう、かな?」
「んー」
パクっと口に含んだそれはふんわりと上品な甘さが広がり、上に乗っていたフルーツの甘酸っぱさと相まって、さっぱりとした味覚を連れてくる。甘すぎるプリンは食べ飽きたルルーシュにとっては求めていた味そのもので、ほろりと頬を蕩けさせて笑みを深くした。

 

author:mutsuki, category:オフ本サンプル, 04:53
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